京都産業大学同窓会

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京都産業大学の初心と現場

(※2023年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
川合 全弘 教授
法学部教授 西洋政治史、外交史

 昭和58年に奉職して以来、私は今年で本学在職41年目、来年3月に定年退職を迎えます。顧みれば、様々な思い出が脳裡をよぎります。近年、縁あって本学史研究に携わりました。これを中心に、卒業生や先輩教職員の皆様に近況報告をさせていただきます。

 十数年前に私はたまたま本学50年史編纂事業の一環として世界問題研究所史の執筆委員を命じられました。調査を進めるうち、世界問題研究所が本学草創期に本来の業務範囲を大きく超える種々の全学的役割を担っていたことが分かりました。中でも初代岩畔豪雄所長と第二代若泉敬所長とが本学創立者荒木俊馬先生と言わば本学創建の盟友とも言うべき親密な関係にあったこと、岩畔先生と若泉先生が本学東京事務所長を兼任し、世界の碩学の招聘、著名政財界人の縁故獲得、卒業生の進路開拓などにも尽力されたことが特筆されます。

 私が本学史研究に惹かれたのは、理想の大学造りを目指して共に献身した荒木先生、岩畔先生、若泉先生らの人物群像の中に、京都産業大学の初心を、生きた人間の姿として見ることができる、と思ったからです。今日、本学は10学部、1万5千人の総合大学へと発展しました。その有様を外面的に見れば、それは、多くの人員と施設を擁し、教育法規・行政とルーティンとに基づいて運営され、いっときも停止できない、一種の大機構です。大学に携わる者にとって、この機構の円滑な運営を心掛けることはむろん必要です。しかし他面でこの機構がなぜ作られ、そもそも何のために存在するのかを改めて問い直す、求心的な姿勢を保つことも必要かと思います。なぜなら構成員各自のこの内心の努力によって初めて機構に血が通い、大学が生きた人間の組織となる、と思われるからです。

 かつて歴史家E.H.カーは、歴史を「現在と過去との対話」と呼びました。これに倣って言えば、本学史研究は、現在の我々と本学先人との対話にほかなりません。先人の事績についての知識を、自分の現場を照らす歴史の鑑として活かせるならば、そのとき我々の内心で過去と現在とが通い合い、今こここそが建学の現場である、と思えるようになるのではないか。これが、本学史研究に託した私の期待です。私の拙い研究*が、京都産業大学に縁した皆様にとって、あらためて本学の初心を想うよすがとなれば幸いです。

*「京都産業大学世界問題研究所五十年外史」世界問題研究所紀要第33巻、「一軍人の戦後――岩畔豪雄と京都産業大学――上中下」産大法学第50巻1・2号、第51巻1号、第53巻2号、「京都産業大学初期史における教育改革案」世界問題研究所紀要第37巻。

左端 岩畔豪雄先生 右端 荒木俊馬先生
荒木俊馬先生と若泉敬先生