京都産業大学同窓会

恩師随想

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恩師随想
学部別

変わらないこと、そして君たちの世界。

(※2022年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
浜 千尋 教授
生命科学部教授 分子神経科学

 皆さん、お久しぶりです。新しい環境と人との出会いの中で様々な生活を送っていると思います。僕の方は相変わらず15号館の入口に一番近い部屋で、授業の準備や採点に明け暮れています。前の廊下を多くの後輩たちが歩くので、賑やかな会話が耳にはいります。学生の声だけでなく、春になるとコロコロと流麗に響くイソヒヨドリのさえずりも聞こえます。若者にとっては、大学が緑に包まれているよりも都会の真ん中にあった方が良いかもしれませんが、この大学の良い点の一つは、鹿などが出没する周りの自然環境とキャンパスの美しさ(例えば図書館前の枝垂れ桜)ですね。また、北大路駅からバスで通学・通勤した時に眺める賀茂川の桜は特筆すべきで、山や川と調和した風景はなかなか他では見られません。通学中に一心不乱にゲームをしていた人も、国際会館から通学していた人も、あるいは賀茂川の風景を実際に楽しんでいた人も、桜をもう一度見に来てほしいと思います。川べりを歩き水の流れを眺めながら昔のことを思い浮かべるのも一興です。忙しくて来られない?そう言わずに、変わらぬものに触れて心を鎮める機会を持つのも良いことです。

 ただ、大学も十年一日のごとく変わらないわけではありません。ひとつはコロナウイルスの影響によるものです。長い間オンライン授業が行われ、僕も最初はオンデマンド動画を作成・発信してYouTuberになった気分でした。初年度から大学に来られない新入生は、友達との交流もなくストレスが溜まったと思いますが、研究室も一時は閉鎖に近い状態となり、飲み会も一切ない状況は今も続いています。河原町に繰り出せるのはいつのことでしょう。また、学部が再編され、名称も生命科学部となり、2学科編成になりました。大学のいくつかの建物は新築となりデザイン賞をもらうほど洒落た作りになっています。本館もそろそろ完成して、黒坂学長(そう、黒坂先生)も秋にはそちらに移られるでしょう。

 研究はショウジョウバエを続けています。大鍋での餌づくりとバイアルへの分注は今も後輩たちが受け継いでいます。研究の推進力であった中山助教が異動してからは苦戦していますが、シナプス間隙にある2つの分泌性タンパク質Hig、Haspと膜タンパク質(CG42613、Sclampと命名)を解析しており、皆さんが積み重ねた成果をもとに、シナプス像のモデル構築に新たな展開を迎えています。それからハエの睡眠も研究テーマに加わりました。やることは尽きないのですが、僕も来年の春には引退し、実験科学は終了です。それでも、世の中には面白いことがたくさんある(あってほしい)ので、実験なしの研究を個人的に続けるつもりです。研究するマインドは自分の世界を広げてくれますからね。

 これからは、皆さんの時代です。大学で学んだことの多くは忘却の彼方に消え去っていると思いますが、大切なのはわずかでも残された知識をもとに、これからも学び続け挑戦することです。見えない向こう側にあるものを見に行こうとする冒険心は生きる力になります。心と体は活動の源なので大事にしつつ、大いに汗をかき転びながら、自分で充実したと思える日々を歩み続けてください。そして、時には、周囲や自分の心の中に小さな発見を。世界の輝きが変わります。