同窓生の皆さん、いかがお過ごしですか。生命科学部・先端生命科学科の齋藤敏之と申します。2010年に総合生命科学部が発足するときに京都の地に赴任し、神山のキャンパスで働いています。定年も見えてきました。現在、共通教育や新旧学部・大学院の教育の傍ら、「ストレスと脳」というテーマで研究を進めています。
2012年の秋、動物生理学研究室に最初の3名の特研生を、それ以後、毎年2~5名の特研生を迎えています。神山の地で学生生活を送った研究室の同窓生の皆さんは、学部・学科(動物生命医科学科)での授業や実習をどのように感じていたでしょうか?この研究室を選んでくれた理由は何だったでしょうか?一度、卒業生から生の声を聴いてみたいと思っているのですが、未だに聞くことができていません。教員個人としては、担当の授業(生理学)や実習(生理学実習)などでは学ぶ量も多く、大変だったかなと思い返しています。とりわけ、研究室の同窓生の皆さんは、応用特研や大学院の研究で脳のストレス応答、脳神経傷害、行動調節などの研究に取り組み、時にはかなり苦闘したでしょう。わからないことの連続だったかもしれません。でも、学部や大学院での学びが、その後、どこかで少しでも生かせることができれば、教育の現場で働く者としては、少し胸をなでおろすことができそうです。
昨年から続く新型コロナウイルス感染症では、見えないウイルスを相手に苦労が絶えません。今の日本の脆弱さも浮き彫りになりました。ただ、一研究者としては、今回の新型コロナウイルス感染症が広がる以前から、ここ10年余り、新型鳥インフルエンザ、豚熱、口蹄疫などの発生に神経をとがらせていました。また、これらの感染症で被害をこうむるブタを研究に使っているものとしては、自ら行動制限をかける日々が続いていました(現在もその状態が続いています)。その中での「ストレスと脳」研究です。研究室の中では、時に獣医の視点から、学生さんに色々と伝えてきたつもりですが、果たしてうまく伝わっていたでしょうか。ヒト以外の動物(研究用動物を含む)においても、まずは感染症を起こさせない、拡大させないための健康管理や衛生管理が必要です。その上で研究が成り立ちます。当たり前のように受け止められることが多いのですが、今回の新型コロナウイルス感染症の蔓延から、その大切さに気づかされました。研究室の皆さんが学んだ学科教育を改めて認識している今日この頃です。
昨年来からの感染症対策で行動の制約を繰り返し受け、しかもそれが長期にわたることは、私達が慢性のストレス状態におかれていることを意味します。ストレス反応のやっかいなところは意識に上らないことです。体に対するストレスの影響を科学的に理解するためにも、個体レベルで「ストレスと脳」を理解する必要性を痛感しています。ハンス・セリエ博士の眼力とその研究に感服するところです。
最近の研究室での研究内容には、基礎的な内容を入れつつ、病態生理学(病気の成り立ちをひも解く生理学)の視点を加えるようになりました。また、今回の感染症を踏まえて、リスク管理、安全な社会づくりと生命科学の高等教育について考えることが多くなりました。ただ、そんなことを考えていても、授業、実習、実験、日常業務等で忙しい日々を送ることが多いのが実情です。今後、人口減が進む中、一人一人の役割が今以上に大切になってきます。先を見据えた生命科学教育を組み立てるためにも、同窓生の皆さんのご提言・ご支援をお願いする次第です。同窓生の皆さんのご健康と益々のご活躍をお祈りしつつ、筆をおかせていただきます。