京都産業大学同窓会

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大学で学んだことは面白かった?

(※2021年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
久保 亮一 教授
経営学部教授 経営戦略論、アントレプレナーシップ

 この文章を読む対象者は卒業された同窓会員ということですので、皆さんになるべく共通する話題を取り上げたいと思います。私が選んだトピックは、「大学(経営学部)で学んだことは面白かった?」です。こう聞くと、「面白くなかった」と3秒で答える方が大半なのかもしれません。このように結論付ければ、話はここで終わってしまうのですが、文字数不足で原稿が提出できなくなるので、もう少しこの文章にお付き合いください。
 例を通じて「面白さ」ということを考えていくことにします。1組のカップルが贔屓チームのサッカー観戦に行ったとします。試合を観戦しながら、彼女は「トラップした、シュートした、ゴールした!」と楽しみました。一方、彼の方は「どうして今日はいつもと異なるフォーメーションを採用しているのかな?」「ああ、相手の攻撃の特徴を消すためなのか、そういうことか」と楽しんだとします。
 ここで例に出したカップルはどちらもサッカー観戦を面白く楽しんだことに変わりはありません。面白いという感じ方や理由に、上も下もないのです。私が指摘したいポイントは、同じ現象を見ながらも彼らが感じた面白さには違いがあるということです。彼女の方は、(サッカー競技という)現象を観察して、その現象そのものの面白さを感じました。一方、彼の場合は、「いつもと違うフォーメーションを採用しているという現象」の背後にある理由を読み解くことに面白さを感じたのです。この例えから、面白さを感じる理由として、①現象が単純に面白く感じる、②何らかの知識をベースにして、現象を解釈する面白さの2種類が少なくともあることが言えそうです。
 次に、このたとえ話の内容を大学での学びに当てはめて考えていきます(文系の社会科学分野での話になります)。大学で受ける講義は、授業によって程度の差はありますが、特定の専門分野の知識を学ぶことがほとんどです。ここでちょっとばかり強調したいのは、講義をする際に各教員は、上の例で見た②の面白さを意識しながら(目指しながら)、専門知識を伝えている(はずだ)ということです。ですが、②の面白さを感じるためには、ハードルが存在します。それは、講義科目の内容を理解し、ある程度の知識を身につける必要があることです。このハードルを越えないと、ある現象を自分なりに解釈することができなくなってしまいます。自分の経験から、このハードルを越える段階でつまづいてしまう学生が多いことを感じており、もったいないなという気持ちを持っています。この原因を学生側の努力不足に求めることは簡単なのですが、教員側が学生に知識の先にある面白さを十分に伝えきれていないためかもしれません。
 さらに、複数の講義科目を学ぶことにより、②の面白さを多面的に味わえることも触れておきたい点です。経営学部での話をすると、経営学部では戦略、組織、マーケティング、会計、ファイナンスなど経営現象に関わる様々な講義科目が領域別に設置されています。これらの専門分野の科目を複数学ぶことによって、それぞれの領域の観点から経営現象を解釈することが可能になります。多くの場合、1つの経営現象は、組織面から、戦略面から、会計上の業績面から、というように複数の視点から考えることが可能です。言い方を変えると、複数のモノの見方(いろんなメガネ)で現象を見ることができます。このように複数の領域を学び、各視点から考えることによって、経営現象に対する解釈が豊かになっていきます。
 最後に、サッカー観戦の例の話に戻ります。この例は、面白さには違いがある、ということを主張するための私の創作ですが、話の前提に問題があるというツッコミが可能です。というのは、そもそもサッカーに興味のない人には、①と②のどちらの面白さも感じることはありません。だとするなら、サッカー(経営現象)に興味のない人を観戦(授業)に連れ出して、①と②のどちらかの面白さを感じてもらうことが、教員の1つの役割なのかもしれません。この役割を果たすことができれば、冒頭での問いである「大学(経営学部)で学んだことは面白かった?」の答えが少しは変わってくるんじゃないかなと考えています。また、ビジネス社会に出られた皆さんは、機会がたくさんあると思いますので、大学時代の学びを思い出して経営現象の解釈を様々な観点から試みてほしいと考えています。