京都産業大学同窓会

恩師随想

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学部別

様々な出会い

(※2021年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
村瀬 篤 教授
理学部教授 整数論

 1987年に京都産業大学に赴任してから34年が経ちました。これまでに、学生や研究者の方々との様々な出会いがありました。この機会に振り返ってみようと思います。
 大変幸運なことに、1990年から1992年にかけて2年間と、2007年の秋学期に自由研究員として海外に滞在することができました。私の専門は「整数論」、特に「保型形式」をテーマに研究しているので、ヨーロッパにおける最大の研究拠点であるマックス・プランク研究所に滞在することにしました。マックス・プランク研究所の数学部門は、ドイツのかつての首都であるボンにあります。世界中から研究者が訪問し、ひんぱんに専門領域のセミナーや研究集会が行われています。1990年頃は、ベルリンの壁が崩壊した直後のためロシアや東欧からの滞在者が多く、また、2007年頃は、アジア圏からの人が多いなど、そのときどきの国際情勢が反映されています。ドイツでの生活は、クリスマス・マーケットやオペラ鑑賞、美術館訪問などの楽しい思い出に加えて、参加していたドイツ語の成人学級で出会ったイランやアフガニスタンの難民から故国の話を聞いたり、またヨーロッパにおけるユダヤ人への奥深い差別のリアルな実態を知るなど得難い経験をしました。
 2度目の滞在の最後の頃にマックス・プランク研究所で行われた研究集会で、ドイツ人の研究者Bernhard Heimさんに会い、彼が私に問いかけた問題に興味を持ちました。それから、彼との共同研究が始まり、これまでに10編以上の共著論文を出版しました。ボーチャーズ積という、数理物理学にも現れる重要な保型形式が、ある「対称性」によって特徴づけられるという現象を一貫して追求してきました。掲載した写真は、2008年の秋にドイツのシュヴァルツヴァルト(黒い森)の核心部にある数学研究所のResearch in Pairsというプロジェクトに申請して、2人で2週間研究合宿したときの写真です。研究所の図書館(数学書の所蔵では、ヨーロッパ有数です)で、毎日白熱した議論をしたことを思い出します。また、Heimさんが数年前まで在職していたオマーンの大学に招いていただいて、エキゾチックな雰囲気を満喫しました。オマーンの大学へは、本学の大学院生をTAとして半年間送り出したこともあります。Heimさんには、本学の客員研究員として、いままでに3回ほど滞在していただきました。理系学部のプログラム「グローバル・サイエンス・コース」のイベントとして、学生向けに数学の英語での講義をしていただきました。

 ちょうどその頃、私の卒業セミナーに入ったのが、写真のM君(右)とU君(左)です。彼らは、グローバル・サイエンス・コースに属していたので、1年生の頃から授業以外にも課外でよく会っていました。彼らを交えたグローバル・サイエンス・コースのグループで、毎週一回、夕方から雄飛館のラーニングコモンズで、課外の代数学に関するセミナーをしたことがなつかしく思い出されます。彼らは課題の問題を思いも寄らない方法で解いてきて、私も大きな刺激を受けました。彼らは、私の専攻とは異なる分野である群論を志したので、他大学院に進学しましたが、書き終えたばかりの修士論文を持って訪ねてくれ、大変嬉しかったことです。
 彼ら以外にも、多くの個性豊かな学生の方たちとの出会いがありました。現在は、コロナ禍で、対面で数学の議論をすることは難しいのですが、状況が落ち着いた将来に、また数学の課外活動の手伝いができたらと思っています。