京都産業大学同窓会

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研究室の歴史

(※2020年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
岡田 英彦 教授
情報理工学部 計算知能

 私が本学に着任したのは2004年のことで、それ以前は民間企業に12年間勤務していた。大学教員としての勤務は17年目となり、すでに企業勤務期間より長くなった。定年の65歳まであと15年、いつの間にかもう半分以上過ぎている。所属学部も、着任したのは工学部であったが、その後、コンピュータ理工学部、情報理工学部と変わってきた。あと何回、新しい学部になるだろうか。
 情報理工学部の学生諸君は、3年次秋学期に「特別研究Ⅰ」を履修する時点で各教員の研究室へ配属され、4年次の「特別研究ⅡA・B」を履修して、いわゆる卒業研究を1年半かけて行う。工学部情報通信工学科、コンピュータ理工学部もこのカリキュラムであった。私自身が大学生だったときは、4年生から研究室に配属され、卒業研究を行うのは1年間であった。このカリキュラムを知ったとき、本学は卒業研究を重視した実践的教育に力を入れていると感じた。着任した年度の秋学期から私の研究室がスタートし、最初のゼミ生を3名迎えた。以来、これまでに81名が私の研究室で卒業研究を行って学部を卒業し、このうち14名が本学大学院の博士前期課程へ進学して私の研究室で修士研究を行った。これらの卒業論文および修士論文のタイトルを、本学の私のホームページにて公開している。これまでのタイトルを振り返ると研究室の歴史がよくわかる。最初の数年間はユーザインタフェース分野の研究テーマが多く、計算知能分野の研究はまだ少なかった。これは、前職の民間企業において従事していたのがユーザインタフェース分野の研究であり、着任後しばらくの間は当該分野の技術や研究動向に詳しく、この知識と経験を教育に活かしたかったためである。その後、徐々に計算知能分野の研究が増えてゆき、現在はほぼすべてが計算知能、特に進化計算手法の研究である。一見すると、数年前からのAIブームに便乗すべく、流行りの分野へとシフトしたように見えるかもしれない。しかし実際には、前職での研究分野とは別に、計算知能分野の技術にも強い興味があり、着任したときから、いずれは計算知能分野の研究室にしたいと思っていた。この計算知能への興味は、自身が学生のときに従事した研究がきっかけとなっている。ルールはプログラムに実装しておらず、データからルールを「学ぶ方法」を実装しただけなのに、何度も計算を繰り返させるだけで、実装していないルールを勝手に獲得して、学習時にはなかったデータに対しても相応しい答えを出せるようになること、そして自分が作ったプログラムで実際にそれが起こることに、大きな感動を覚えた。今ではタネもシカケもよくわかっているので当時ほど素朴には意外性を感じないが、これからの社会におけるAI技術の貢献には期待している。私がいま、このような技術や分野に強い興味をもち、本学にて教育と研究に従事できているのは、ひとえに、私が当時、恩師の研究室を選び、当時の卒業研究テーマに出会えたからである。いまではその私が「恩師」と呼ばれる立場にいて、卒業研究を指導している。はたして何名の卒業生の皆さんから、「あの研究室に入ってよかった」「あの卒業研究ができてよかった」「卒業研究はおもしろかった」と思っていただけているだろうか。
 いまはコロナ禍で、ゼミもすべてリモート環境で実施している。幸いにも、私の研究室の卒業研究テーマは特殊な機材を必要とせず、PCがあれば実施できる。現在のこの状況でも、研究テーマを変更することなく、ゼミ生諸君がそれぞれ着々と研究を進めている。進化計算では環境に適合した解だけが淘汰を生き残って次の新しい解へと形質を継承させる。いまのこの環境を不満に思うより、環境の変化に素早く適応できる柔軟な心構えを持ち、環境に自らを適合させて行動したい。