京都産業大学同窓会

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演劇ゼミへの道

(※2020年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
時田 浩 教授
文化学部 ドイツ文学・演劇学

 同窓会報には32年前、京都産業大学教養部にドイツ語教員として奉職しはじめたときに、新任教員のプロフィールを載せたいとのことで、大学の印象を簡単に述べたことがありました。それ以来の原稿依頼となります。着任時には、ずっとこれからドイツ語を教えて過ごすのだろうなと思い浮かべておりました。ただ、私はドイツ演劇を専門に研究してきましたので、そして舞台芸術が大好きで暇さえあれば劇場に行きますので、演劇のことも教えてみたいという願いをいだいておりました。そんな折に一般教養の講義科目を担当してくれないかとの要請があり、それ以来「演劇論(入門)」の授業を持ち続けております。ですから、同窓生の方々の中には、ドイツ語の教員として私を覚えていてくださる方もあれば、演劇の授業の先生と思っておられる方もあると思います。
 その後教養部が解体され、外国語教育研究センターなどを経て、文化学部の教員となり、ここで初めて演劇学の専門科目を持つことになりました。初めは講義を持ちましたが、専門の授業となると、やはり演習(ゼミ)が中心科目です。私も学生のみなさんと演劇のことをとことん話してみたいという欲求が高まって、15年前からゼミを担当するようになりました。
 授業で扱うのはドイツ演劇だけではありません。私自身があらゆる舞台芸術(ミュージカルなど音楽劇も)に関心がありますので、ギリシャ悲劇から野田秀樹までさまざまな演劇を研究します。戯曲を読み解くのみならず、舞台の映像を鑑賞することで理解を深めます。さらにはゼミ生を連れて実際の舞台を観にあちこちの劇場に出かけていきます。年3~4回、大阪の劇場が多いですが、西宮や大津の劇場にも足を向けます。演劇を観たあとは、お茶やお酒を飲みながらの演劇談義となります。日頃から鍛えたディスカッションで、意見や感想が飛び交い、むしろ私としてはこちらの方が楽しみです。
 あるときははるばる名古屋まで出かけました。名古屋在住の元ゼミ生Aさんを交えての観劇でした。終演後は近くの喫茶店に場所を移してのディスカッションとなりましたが、各メンバーがはっきりと公演の出来栄えを評価するさまを、Aさんは驚きの目で見ていました。けれどもAさんもかつては同じように歯に衣着せぬ議論をしていたのですが、社会人になって話しぶりの変わったことに時間の経過を感じたひとときでした。
 演劇の魅力はライブの魅力です。舞台を映像で撮っても、その演劇の本質を再現することはできません。生でしか伝えることができないものがあるからです。もちろん映像を使うことで、多くの人が安価に楽しめることはよいことなのですが、舞台の本当の芸術性はそこにはありません。スポーツでもテレビで見たほうが細部はよく分かります。しかし会場の雰囲気や競技の迫力はライブでしか味わえないものに思われます。だからわざわざ手間暇とお金を費やして出かけるわけでしょう。
 これはちょうど大学の授業と同じだと、目下コロナ禍の中でオンライン授業をしている身には感じられます。情報や知識などは映像の授業でも十分に伝えられるでしょうが、対面でなければ伝えられないものがあります。やはり人間同士が出会って、葛藤しつつ試練を克服しなければ手に入れられないものが教育にはあるのではないでしょうか。

観劇のあと、劇場前で

 現在はまだ劇場もほとんどが閉じられていますので、ゼミ生との観劇もできず未消化の思いで授業をしております。ゼミでの観劇を目当てにゼミに入った受講生もいるでしょうが、その目的を果たせずにいることになります。でも、いずれ以前のように劇場文化を楽しむことのできる日がやってきます。その時には、劇場のロビーで卒業生のみなさまと偶然出会い、久闊を叙するひとときを過ごしたいと念じております。次回は是非劇場でお会いしましょう。