京都産業大学同窓会

恩師随想

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恩師随想
学部別

学生と挑む夢の実現

(※2019年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
蚊野 浩 教授
情報理工学部 画像処理工学

 10年前まで会社勤めをしておりましたので、「恩師随想」の「恩師」が自分のことである、と気づくのにしばらくの時間を要しました。それほど多くの教え子がいるわけではないのですが、この機会に全員の顔を眺めてみると、一人一人が卒論や修論を完成させるまでのことが思い出されます。
 私自身は、画像処理やコンピュータビジョン(計算機視覚)という分野を専門にしております。画像処理はカメラやテレビ、FAX、プリンタなどの画像機器を実用化するための技術です。コンピュータビジョンは、カメラで撮影した画像や映像をコンピュータで処理することによって、元の3次元世界を理解する技術です。人間であれば、写真を見て「これは誰」「あれは誰」「この場所は何処」などと、知ったことであれば、即座に答えることができます。この分野を研究する私でさえ、このようなことをコンピュータができるようになるのは、だいぶ先のことであろうと思っていました。この夢のようなことが可能になりつつあります。例えば、車の自動運転がホットな話題になっていますが、そのような車は、カメラを始めさまざまな画像センサーとコンピュータを使い、車両の周囲環境を認識し、人間と同等の運転を実現しています。
 情報理工学部の学生は、3年生の秋学期に研究室に配属されます。秋学期に行う授業は『特別研究I』と呼ぶものです。特別研究という名前ではありますが、あまり研究はしません。卒論で必要になるスキルを習得するための授業です。プレッシャーやストレスも少なく、平穏な時間です。

蚊野研究室の卒業アルバムから

 4年生の『特別研究II』(いわゆる、卒論)は、一転して、私にとって大きなプレッシャーとストレスです。学生も同様だと思います。実際、言葉によってかなりの緊張を与えるようにしています。卒論は、1.何らかの新規性があり、2.1年をかけてやるだけの価値があり、3.その研究を通じて社会で通用する能力を身につけることができ、4.学生が興味を持って取り組みことができる、テーマにします。卒論の研究テーマは、私にとっての夢の一部でもありますから、自ずと力が入ります。しかし、なかなかスムーズには進まず、毎年、同じようなドタバタの繰り返しです。学生諸君の頑張りにより、最終的には立派な卒論を仕上げ、卒業して行きます。彼らの卒業論文と発表会で行ったプレゼン資料は、全て、私のWebサイトで公開しています。
 人が学び、育つためには「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやり、話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやる」と言います。正直、そこまでの指導は難しいものがあります。しかし、特別研究をやり抜くことで、彼らは確実に成長しています。私も成長しています。
 京都産業大学は、開学直後の1967年に大型コンピュータを導入し、これを全学のコンピュータ教育に利用した、という歴史があります。以来、50年余りになり、本学もコンピュータ技術も大いに発展しました。コンピュータ技術の発展を示す法則に、ムーアの法則があります。これによると、コンピュータの能力は、50年で1億倍ぐらいになります。これはほぼ事実です。カーツワイルという未来学者は、この発展が今後も続き、2045年にコンピュータの能力が人間の能力を凌ぐようになる、と予測しています。これはありえないと思いますが、皆さんの未来予測はいかがですか?