京都産業大学同窓会

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学部別

卒業生からの風

(※2019年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
西村 佳子 教授
経済学部 金融論

 先日、製薬会社のMR職で内々定をもらった女子ゼミ生から「製薬関係に進んだゼミの先輩に、育休後のMRの復帰状況について聞いてみてください。」と依頼された。どうやら彼女は、建前ではなく本音が知りたかったらしい。SNSから卒業生たちに連絡を取ると、あっという間に丁寧なお返事をいただくことができた。この種の依頼は毎年のようにあり、卒業生からは、「IT企業で、文系・未経験者をSEとして育成するための教育環境の有無をどう見極めるか」といった、私には答えられない質問に、的確な答えや助言をいただいている。卒業生こそがゼミの資産であることに改めて気づかされる。(ご協力くださったOB・OGの皆さん、ありがとうございます。)
 私が賀茂川の堤防を彩る桜に見とれながら京都産業大学に着任したのは、バブル崩壊後の不良債権処理に目処もついていない1999年の春であった。あれから20年、ゼミの卒業生は300人を超え、彼らはバブル崩壊後の長い就職氷河期、ITバブルの崩壊、リーマンショック後の経済停滞等の荒波に翻弄されたり、人手不足や技術革新による幸運を掴んだりしながら幅広い分野で社会人としての第一歩を踏み出していった。金融のゼミに所属しながら「どうしても経済学や金融に興味が持てない。」とぼやいていた数名は、面白いことに小学校の先生になっている。  金融を担当しているので、交流の深い卒業生には、都銀や地銀等の金融機関、GPIF、金融機関向けのシステムを開発するIT企業、上場企業のIRや財務部門、信用保証協会、不公正な取引を監視するシステムを提供する企業など、広く金融や企業金融に関わる分野で活躍している人が少なくない。時折、卒業生をゼミにお招きして業界の現状や課題についてお話しいただくのだが、2016年に信託銀行から卒業生のK氏をお招きした後に、金融業界志望者が大幅に減ったことは印象的であった。ゼミ生達は、“卒業生からの風”を受け、近い将来、技術の変化がもたらす大波を敏感に感じ取り、思慮を巡らせたのだろう。この判断の転換点は、一般の就活生よりもかなり早かったと記憶している。(技術の変化や、大規模な業界再編が楽しみだという冒険心に富んだゼミ生もいます。)
 「金融は企業活動の黒子(くろこ)」ということで、ゼミでは一貫して企業見学を重視して来た。関西を出て徳島や岡山、愛知や三重にまで足を延ばし、卓越した技術や設備を見学しながら、設備投資や研究開発投資の規模や資金調達方法に想いを馳せる。見学先で説明を受けた基礎技術が、5年後、10年後に製品化されていることに気づくことも度々で、そういう時には、企業見学時に熱心に質問をしていた卒業生たちの姿を懐かしく思い出す。(そろそろ、「ゼミの企業見学研修で卒業生から説明を受ける」という積年の夢を実現したいので、卒業生の皆さん、企業見学をお引き受けいただける場合には、ぜひお声がけください。)
 世の中が変わっても、学生に学んでほしいことの本質はそう変わらない。そして、ゼミの雰囲気もあまり変わっていない。私自身も、卒業生の皆さんが活躍されている分野の風を届けてくれることを心待ちにしながら、今日も皆さんの母校でいつものように教壇に立っている。 

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