京都産業大学同窓会

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「中井ゼミ」という誇り

(※2018年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
中井 透 教授
経営学部 経営財務論

「京都産業大学におけるゼミ生はまだ居ませんから、先輩ゼミ生からのメッセージはありません。フロンティアスピリットあふれる皆さんが新しいページを作り上げてください」
 翌年の4月に本学経営学部に移籍することが決まっていた私に、ゼミを募集するにあたって、研究テーマや進め方などを書いてほしいとの連絡が入りました。いわゆるシラバスという講義計画であり、それ自体は書き慣れていたものでしたが、当時の勤務校にはない「先輩ゼミ生からのメッセージ」という項目があって冒頭のような「先輩」ならぬ「教員」からのメッセージを記しました。
 そもそも、新任教員のゼミは人気がないのが当たり前です。授業を受けたことがない「未知の人」であり、先輩からの情報がない「他所の人」だから。実際、当時から遡ること15年以上前に当時の勤務校に赴任した時、つまり私の記念すべき人生初のゼミの応募者はゼロでした。その時学習したのは、ただでさえ人気がないのに、自分の研究内容を前面に押し出してゼミのテーマとし、その学習を学生諸子に強いるのは自己満足でしかない。特に私の研究テーマであるファイナンスを好む人が少ないという現実に鑑みれば、自ら学生諸子を遠ざけているようなものだと。
 こうした体験を経て「リベンジ」の機会を得た私は、本学での最初の募集に当たって、研究テーマは少しぼやかしつつ、育成する人材像として「人間力」を前面に押し出しました。
 企業や各種組織が求める人材の本質的価値である人間力を育み、向上させることに重点を置く。小手先の技術や生半可な知識を拠り所にするのではなく、組織において強固な基盤として機能する人材、あるいはそうなる可能性を有する人材を育成することが重要であるとの認識に基づくものでした。短い期間ですが民間企業での勤務経験があり、教員になっても中小企業診断士の資格を生かしながら企業の現場と関わりを持ち続ける中で実感していたことであり、若い人を育成していくうえで理念として掲げていたのです。
 その結果、なんと、「選べる」だけの応募者があり、その中から20名の京都産業大学経営学部中井ゼミ1期生を選抜できたのでした。
 この1期生が素晴らしかったから、今の中井ゼミがあります。担当教員がどのような人物かさえ分からない状態で、前人未踏の地に最初の一歩を踏み出したフロンティアスピリット旺盛な彼らが見事なまでにゼミの理念を理解し、実践することで、中井ゼミの基盤を作り上げてくれました。

1期生から現役生まで集った
アラムナイ総会の様子

 中井ゼミの理念を伝え、同じ志を持った後輩に来てもらおうと、ゼミフェアなどのイベントを通じて自主的に2期生の募集を行ってくれました。その結果、118名もの応募者を集めるに至りました。学部の定員が610名で、ゼミ開講教員数が35名ほどいたと記憶しています。しかし、特筆すべきは、その数の多さよりも、彼らが延べ十数時間にわたって面接を行い、選考した2期生が、1期生同様、素晴らしい人材であるということです。そして、彼ら2期生が面接をした3期生も、また然りです。1期生が作り上げた新しいページの後に、次々と、ページが加わってきています。このページに載ること、つまり中井ゼミ生であることの誇り、あったことの誇りを学生諸子に感じてもらいたいと思ってこの十数年やってきました。今年の3月に9期生を送り出し、中井ゼミの卒業生は224名になりました。いつまでも京都産業大学の、そして中井ゼミの卒業生であることを誇りに思ってもらえるよう、2・3年に一度、卒業生と現役ゼミ生の交流を目的にアラムナイ総会を開催し、人間力を発揮して社会で充実した生活を送っている紳士・淑女たちと交流する機会を得ています。現役のゼミ生、これから中井ゼミの門を叩こうとしている人たち、中井ゼミに関わるすべての人たちが誇りを持ち続けてくれることを願っています。