大学で知り、今も力となっている「重ねた準備が形になる喜び」。
――中武さんの手掛けるタフティングについて教えてください。
タフティングの「タフト」とは「毛糸の束」という意味で、毛糸を布に打ち込んで柄を表現する技法を「タフティング」といいます。マットやラグは機械で作る方法もありますが、タフティングは、専用のガンを使い人の手で行うもので、機械では絶対にできない細かい柄を出すことができます。
――このお仕事を始めたきっかけは?
大学卒業後は広告代理店に就職し、お客様のために全力で考えることにやりがいを感じながら働いていました。ですが、異動を経て仕事で悩むようになり、そんなとき、美大出身の兄が趣味でやっていたタフティングと出会ったんです。
初めてこの世界に触れたときから、今まで自分がいた環境との違いに圧倒されました。オフィスで働いている限りは触れることのないカラフルな色、作品を受け取るときのお客様の笑顔…そういうものを見ていて、「自分はいったい何をしているんだろう」と思い、すぐに退職して兄のプロジェクトへの合流を決意しました。
――働くうえで大切にしていることは何ですか?
ラグ制作体験費用は2万8,000円から。テーマパークに3回は行ける金額で、お客様もそれと同じくらい楽しみにしてくださっています。何より大切にしているのは、そういうお客様の気持ちに応えることであり、それこそが今の原動力。もともと「人のため」のほうが頑張れる性格なんです。
――なぜ京都産業大学を選んだのですか?
私の地元では、大学といえば国公立のイメージがあり、「地元の大学を出て地元企業に就職するのが理想」という考え方が根付いていました。私立を選んだ理由には、そういう雰囲気への反発もあったと思います。一方で「将来は宮崎で暮らすもの」とも思っていて、それまでに外の世界を経験しておきたくて、塾の先生が進めてくれた京都産業大学を選びました。私立大学を選んだのは学年でも数人程度だったと思います。
――大学生活で印象的だったことは何ですか?
授業では、経済学部の坂井先生のゼミで、自分でリサーチしたことを発表するとき、パワーポイントでアニメーションを使ったりして、少しでも伝わりやすいようにと工夫をしたのをよく覚えています。このとき感じた「人と同じことをしたくない」という気持ちは今も変わらず、常に「自分にしかできない仕事をしたい」と思っています。
大学であまり友達を作らなかったせいで学外の思い出が多いのですが、さまざまなアルバイトに挑戦したのはよい経験でした。結婚式のスタッフ、おばんざい屋さんの店員、個別指導塾の講師…とくにおばんざい屋さんでは、常連さんをとても大事にするオーナーの姿勢に、お客様を大事にすることの大切さを学びました。
そんな中で強く印象に残っている大学での経験が、神山祭実行委員会の活動です。配っているビラをなかなか受け取ってもらえなかったり、出演タレントさんのためにあれこれと気を遣ったり。3日間限りのイベントのために1年間ずっと準備を重ねるのってすごいことだと思いました。そうした努力を重ねて臨んだ3日間は本当に楽しく、準備が形になる喜びを実感できたのです。
――その経験は今どのように生きていますか?
今の会社の設立準備も本当に大変でした。約2カ月半かけて準備をしたのですが、経理のことなど全くわからないし、SNSアカウントやワークショップ用予約サイトの開設など本当にやることがいっぱい。やり抜くことができた理由は、大学での経験があったからだと思います。1回目のワークショップ予約が開始1分で満席になったときは本当に感動しました。
――最後に同窓生へのメッセージをお願いします。
私は多くのことを直感で決めてきましたが、それでよかったと思うんです。大学ではもっと友達を作ることもできましたが、「やりたいことはそれではない」と敢えてそうしなかった。結果、学外の活動を通じていろんな大人と出会うなど、人とは違う経験がたくさんできました。神山祭実行委員会にも直感で参加し、その後の人生に続く大切なことを学びました。会社を退職したときも周囲の方からさまざまな意見がありましたが、この道を選んで本当によかった。皆さんにも、自分の気持ちに正直であってほしいです。
コロナ禍の生活は、思い通りにいかないことも多いでしょう。でも、今だからこそ出来ること、感じることが必ずあるので、自分にしかできないことをぜひ探してみてほしいですね。