「自然環境を守りたい」という想いから生態学の世界へ
――現在、生態学や環境政策学、グリーンインフラ※1といった学問の研究を行われていますが、これらの研究を志した原点はどのようなものだったのでしょうか?。
小さい頃から自然や生き物が好きで、虫採り や魚釣りによく行っていました。これからの自然 環境を守りたいという想いを胸に、大学院でも生 物多様性や生き物の研究を行い、博士号を取 得しました。ただ、研究自体は楽しかったのです が、論文をいくら書いてもすぐに問題が解決す ることは少ないし、自然環境の研究分野は常に お金がないなという実感がありました。同じ大学院 であっても外で生き物を探している研究と、人の 健康を守る研究のどちらに研究費があるかとい うと、健康の研究なわけですよね。当時は、自然 環境の問題を明らかにすることが社会をよくす るということにあまり繋がっていなかったんじゃな いかと思います。その時は自分自身も自然環境の 問題と社会をどのように繋げたらよいか分から ず、一度社会に出てみようと思いました。その時 に進んだ先が銀行のシンクタンク※2です。10年ほ どシンクタンクでの仕事を進める中で自然環境と 社会との繋がりについて考えることができまし た。その結果、自然環境と経済を両立する政策 を進めるべきだと考え、なかでも自然環境を活用 したインフラ整備=グリーンインフラという政策が 重要になると思いました。こういった政策に長期 的に関わっていけるような立場から取り組んで いくため、大学教員としてこれらの研究と教育に 取り組みたいと思い立ちました。
――学生時代や研究員時代に抱えていた課題感、シンクタンクでの経験を経て、現在の研究分野に辿り着いたんですね。
そうですね。あと、グリーンインフラや自然環境の政策を考える中で一人だけではできないなとも感じていました。これらの自然環境の問題は良くなっていますが、解決にはまだ非常に長い期間がかかり、この分野の研究を一緒に取り組んでくれる人を増やすためにも大学教員として力を尽くしたいと考えています。
環境政策学の最前線は、山岳地帯からメタバースまで

――現在は環境政策学研究室として生態学やグリーンインフラの研究を進められているとのことですが、具体的にどのような研究が行われているのでしょうか?
環境政策学研究室では今年度の活動方針として、グリーンインフラ・生物多様性保全に必要な研究に取り組んでいます。そのために、学生さんと一緒に週1回以上は森林や山岳地帯に赴き、フィールドワークを行っています。特に最近は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)という研究プロジェクトのグリーンインフラの社会実装に携わっており、三重県いなべ市の自然環境の調査を行っています。自然豊かないなべ市において、人の流れの創出を通じたグリーンインフラの保全・活用に取り組んでいます。フィールドで調査をしているのですが、夏の時期はすごく暑いんですよね。(笑)片道3時間かけて山を登り、翌日は川で魚を見つけたりしています。このような活動を通していなべ市の自然環境の現状把握を行いながら、グリーンインフラの社会実践を行っています。研究室ではこのプロジェクトに関連するテーマを学生さんにも研究してもらっています。
――週1回以上もフィールドワークに赴かれるのはすごいですね!環境政策学研究室の基本・活動方針として様々な技術・ツールを積極的に活用していると伺ったのですが、実際にはどのような取り組みをされているのでしょうか?
はい。最近は自然環境そのものの研究だけでなく、メタバース※3や3Dプリンタといったデジタルツールを研究に活用していて、私よりも学生が主体的にデジタルツールを取り込んでいます。例えば、本研究室の所在地である本学9号館やいなべ市のグリーンインフラをメタバース上に構築しています。こういった技術を活用することで、実際に現地に行かなくてもグリーンインフラの取り組みをメタバース上で気軽に見てもらうことができるので、自然環境教育の学習の場として活用することができています。このほかにも京都市内で整備され、洪水対策にも期待される「雨庭」の3Dモデルを作成して3Dプリンタで出力した「雨庭カプセルトイ」や遊びながらグリーンインフラについて考えることができるカードゲーム「グリーンズ」を開発しています。「雨庭カプセルトイ」は国土交通省の第5回グリーンインフラ大賞「優秀賞」を受賞したんですよ!これらの様々な技術についても、学生さんたちが主体的に学んで研究に活かしてくれています。


ONE CAMPUSだからこそ実現した共同プロジェクト
――最新技術について学生の皆さんが自ら学んで身に着け、研究室の活動に貢献されているんですね!その他にも情報理工学部ともコラボレーションした取り組みがあるとお聞きしました。
現在、環境政策学研究室と情報理工学部棟方研究室との共同プロジェクト「Enre(エンリー)」を企画・開発しています。コラボレーションのきっかけとしては、学内で行われていた教育支援プログラムの発表会でお互いの発表内容を見た時に、これは研究内容に繋がりがあるんじゃないか、と感じたんです。そこから棟方先生にもSIPの取り組みに参加してもらったり、こちらも情報理工学部の取り組みに参加させてもらったりしながら、共同で研究を進めています。この 共同プロジェクトでは、学内での混雑時の待機時間や空き時間を有効活用して、気軽に様々なイベント情報の発見や、参加・記録が可能なWebアプリを開発しました。また、学内を舞台に自然環境に貢献するイベントなどを企画し、アプリを通して自然との関わりや貢献活動についてより知ってもらう機会を提供しています。今年はさらに規模を拡大し、学外の社会課題の解決に向けた取り組みも計画されています。

――今回のお話を通して、幅広い分野でたくさんの方と協働しながら研究に取り組まれていることを知り、環境政策学にとても興味を持つことがでました!最後に同窓生に向けてメッセージをいただけますか?
実は私が住んでいるところの近所にも本学の卒業生の方がいらっしゃるんですよね。皆さんとは家族ぐるみで仲良くさせてもらっているのですが、職場のお話などを伺っていると、いろんな場所で活躍されているのだなと実感します。そういった方々のお話などは学生の皆さんも是非聞きたいと思っているはずなので、そのような場が大学でももっと設けられたらいいなと思います。ほかにも、神山祭など大学では様々な催しも行っているので、卒業生や同窓生の皆様には是非大学に戻ってきてもらって楽しんでいただけたらなと思います。そのきっかけにするためにも、まず私はご近所のOBの方との虫採り大会を企画しようと思います。(笑)
※1 グリーンインフラとは、自然が持つさまざまな機能や仕組みを豊かな生活空間づくりや災害への備えとして活かすインフラや土地利用を指す。
※2 シンクタンクとは、政治、経済、科学技術など、幅広い分野にわたる課題や事象を対象とした調査・研究を行い、様々な分野の政策の提案をおこなう研究機関を指す。
※3 メタバースとは、インターネット上に仮想的に作られた3次元のデジタル空間を指す。利用者は自身の分身となるアバターを通して仮想空間にアクセスし、利用者同士でコミュニケーションを取ることや、様々なサービスを利用することができる。
