京都産業大学同窓会

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Dog Yearな計算機運用管理

(※2017年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
大本 英徹 教授
コンピュータ理工学部 情報学

 コンピュータ業界、特にインターネット関連分野では、その技術革新の速さ故に時間の流れをDog Yearと称することがある。私が平成5年4月に本学工学部情報通信工学科へ奉職して以来、教育用計算機設備の運用管理の変遷は、まさしくDog Yearであった気がする。本稿では、私が関わった計算機運用管理を振り返り、そのDog Yearぶりを眺めてみたい。
 初めて本学に出勤した日の帰り際、当時、学科主任であった平石先生はワークステーションの前で何やら悩んでおられた。その理由をお尋ねしたところ、「gccのコンパイルが通らない….、」という先生のお答えに驚愕した事を覚えている。「教授ともあろう方が、gccをソースコードからコンパイルしてインストールする?!?!」そう、我々の教育用計算機の環境構築や設定は教員のボランティア作業によって支えられていたのであった。それから24年余り、自分自身がそのような運用管理にどっぷりと漬かるとは予想だにしなかった。
 当時、情報通信工学科ではSun Microsystems社のSPARCStation 1と呼ばれる最先端UNIXワークステーションを使用していた。これらにソフトウェアをインストールする際には、どこかから入手したソースコードをコンパイルしてインストールしたものであり、その作業は全てコマンドライン操作によるのが一般的であった。その後、これらのワークステーションは後継機種SPARCStation 5へと設備更新された。
 平成11年4月には、本学の誇る情報処理教室棟として10号館が竣工した。ここに導入された計算機設備は、全国でも初めての大規模なWindows/Linuxのデュアルブート方式を採用したIBM製PC設備であり、この方式は多少の技術的変更を受けながらも現在まで継続している。当時の機種選定の議論において、高々30万円弱のPCが300万円近いUNIXワークステーションを遥かに凌駕する性能を発揮する事が確認され、コモディティPCハードウェアの恐るべき性能向上ぶりに驚嘆したことを覚えている。尚、当時の10号館PC設備は、授業で使われない時間帯にはクラスタ型計算機として各種の科学技術計算に利用できるものとなっており、このような設備有効利用も全国で類を見ない方式であった。その後、私は同年9月より学外研究員として米国University of Southern California (USC)に滞在した。渡米前の10号館Linuxデスクトップのあまりの使い辛さに辟易していた私は、間もなく帰国という時期に本学情報センターと連絡を取り、そのLinuxデスクトップを全面的に構築し直す作業を手掛けた。当時、まだインターネット回線速度はそれほど速くなかったが、住んでいたロサンゼルスのアパートメントからダイヤルアップ回線でUSCへ接続し、そこからsshで学内の構築作業用Linuxに遠隔ログインするという曲芸じみた構築作業であった事を懐かしく思う。その後、平成12年9月に日本へ帰国した私は、毎年、年度替わりの時期になると10号館のLinuxデスクトップ環境をゼロから構築し直すという教員にあるまじきボランティア作業(!)に勤しむことになり、これは本学コンピュータ理工学部が発足するまで続いた。
 平成20年4月コンピュータ理工学部の発足において特徴となった教育用設備は、学生それぞれにApple製ノートパソコンを持たせ、それを専用ネットワークに接続して起動するだけで個人パソコンが授業専用パソコンに早変わりして利用できるNetBoot環境であった。これは日本初の挑戦であり、また、世界的にも例を見ないコンピュータ理工学部独自のシステムであった。当時の学生諸君には、普段利用している自分のパソコンをNetBoot環境に接続するだけで授業利用に最適にチューニングされた専用端末として利用出来る仕組みについて、十分説明できる技術情報を提供出来なかった事を申し訳なく思う。このシステムも設計・導入・構築・運用・維持の全てを私一人が担当し、さらに、NetBoot環境を実現するために専用に構築された14号館全体に整備された超高速ネットワークも構築・運用の全てを私が行なった。しかし、さすがに私の対応能力も限界に達し、平成27年度末をもってNetBoot環境、及び、14号館ネットワークは運用休止を余儀なくされた。
 コンピュータ理工学部では、学部専門科目の講義風景をビデオ録画して、受講生が学内外からインターネット経由で随時視聴できる「講義収録システムLecRec」もNetBoot環境と並行して運用してきた。これは平成24年度秋学期より試験運用を開始し、現在では、収録設備を備えた教室で実施される殆どの専門講義科目を収録対象として運用継続されている。類似のシステムは他大学での導入事例もあるが、我々のように殆ど全ての学部開講科目を対象とするような運用は全国的にも相当珍しい。本システムの構築運用も、これまた私一人のボランティア作業に依存するものである。
 以上、私が運用管理してきた教育用計算機設備について、まさしくDog Yearの如く、24年間余りを振り返ってみた。同時期に在籍された卒業生の方々は、これらの設備の何れかを利用して学ばれた事を懐かしく思われるかもしれないし、また、それら設備に対する様々な不平不満を思い出されたかも知れない。願わくば、これらの設備の運用維持において、学生諸氏に最良の情報教育設備を提供すべく最大限の努力を費やした一教員が存在した事をご理解頂ければ幸いである。