京都産業大学同窓会

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私のゼミ -複素解析学-

(※2017年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
石田 久 教授
理学部 函数論
ニュートン法に現れるフラクタル図形

 秘密の財宝の隠し場所を書いた古文書を見つけました。その古文書によると、ある無人島に財宝が埋めてあり、その無人島にはカシの木と松の木と絞首台があります。まず、絞首台からカシの木に歩数を数えながら向かい、カシの木からは、右へ90度向きを変え、同じ歩数進み、そこに杭を打ちます。絞首台に戻り、松の木に歩数を数えながら向かい、松の木で、左へ90度向きを変え、同じ歩数進み、そこに2番目の杭を打ちます。二つの杭の中間に宝が埋まっている、というものです。ところが、その無人島に行くと、嵐によって絞首台が吹き飛ばされ跡形もなくなっていました。無事宝を見つけることができるでしょうか。
 この問題は私がまだ高校生だった時に出会ったものです。当時、高等学校のカリキュラムが改定され、初めて複素数平面が高校の数学に入ってきました。学習参考書も数種類しかない時代で、出版社の販売促進用の小冊子に掲載されていたものです。物理学者のガモフが考案したパズルだと知ったのはもう少し後のことです。
 私が複素解析学を専攻するようになったのも、この問題に出会ったせいかもしれません。1976年に京都産業大学に就職できたとき、複素解析学などの複素数平面の講義では、よくこの問題を教材として使っていました。卒業生のみなさんの中にも覚えておられる方がいるかもしれません。今でも解き方を覚えておられるでしょうか。
 数学科も現在では数理科学科となり、卒業研究に相当する科目も名称が数理科学特別研究となりましたが、産大に就職したての頃のゼミのテーマは等角写像で、ゼミ生に輪読してもらうスタイルでした。今から思うと、結構高度な内容でしたが、みんな頑張って発表していたように思います。能登島へゼミ旅行に行ったのも懐かしい思い出です。

 1980年代になり、阪大で行われた研究集会で「複素力学系」に出会いました。コンピュータの画面に表示されるジュリア集合、マンデルブロート集合などのフラクタル図形の「複雑さの中の美しさ」に魅了されました。パソコンが個人でも使えるようになり始めていた時期で、少しのプログラムの知識があれば美しい世界を楽しむことができました。この世界をゼミ生と一緒に探検したくて、学内のあちこちからパソコンを集めてきて、2号館の研究室でゼミ生一人一台ずつでゼミをしていました。寄せ集めなので機種はバラバラでした。現在は10号館でゼミを行っていますが、狭い研究室でやっていた頃の方がゼミ生との精神的な距離もずっと近かったように思います。その2号館もサギタリウス館に生まれ変わり、古い写真と思い出の中だけになってしまいました。