京都産業大学同窓会

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若い人に望むこと、若くない人がすべきこと

(※2017年9月発行の同窓会報の内容を転載しています)
小田 秀典 教授
経済学部 経済学

 この同窓会報の読者には、私が京都産業大学に就職した1990年以前の卒業生から卒業したての人まで、いろいろな年齢の方がいるでしょう。本稿には、若い世代と若くない世代がそれぞれすべきことについて思うことを書きます。すべて私の個人的意見ですから、そういうものとして読んでください(立派な感想だが、具体性がないと息子に批判され反論できない水準のものです)。
 若い人に言いたいことは、成功率100パーセントは必ずしも最善ではないことです。シュート成功率100パーセントは、シュートが望まれるときに常に試みた結果なら素晴らしいですが、絶対確実なときにしか試みなかった結果であれば、試みれば得られたかもしれない得点を失っています。試合でも人生でもリスクをとるべきときがあり、リスクをとれば失敗するときもあります。
 若い人たちには適切にリスクをとってほしいと思います。いまは経済が停滞しているうえに、何かを試みて失敗すると、試みたことが評価されず失敗したことが責められる社会です。けれども、若者には失敗を恐れすぎないことを望みます。じっさい失敗率を下げるのは簡単です。目標を下げればよいのです。さらに、そもそも挑まなければ絶対に失敗しません。恋をしなければ絶対に失恋しません。けれども、それで悔いのない人生を送れるとは限りません。我が身を振り返ると、恋愛はともかく研究では後悔は大きいです。若者は、挑戦して失敗したり成功したりするほうが、目標を下げて常に成功するよりも大きな成果をあげられると信じて頑張ってください。
 チャンスは、知らないうちに来て去っていきます。京都産業大学に勤めて驚いたのは、院生と若手研究者がほとんどいないことでした。学部生と教授だけでは研究できません。研究の拠点を他大学に置きたいとは思わなかったので、理科系の学会に参加しては社会科学にも興味のある若者たちを誘い、研究費を獲得したり理工系のプロジェクトに参加したりして研究を進めました。おかげで2000年頃には、所属も専門も様々な院生や研究者が出入りする活発な研究室になりました。

経済実験室

自分では意識していませんでしたが、これが私にはチャンスを掴むための準備でした。彼らのおかげで、経済実験室の建設が可能になり、経済実験室はいまも研究教育の拠点として機能しています。
 多くの若者たちが実験室で育ったのは嬉しいですが、自分自身の研究活動を振り返ると後悔があります。目先の成果にとらわれず、もっと重要で基礎的な課題に挑むべきだったと悔やまれます。もちろん挑戦しても成功したとは限りませんが、挑戦しなかった後悔は残ります。若者にはこのような後悔のない人生を送ってほしいと思います。
 さて、若くない人は何をすべきでしょうか。若いときのまま頑張るのもよいでしょうが、若いときにはできなかったことをするのもよいと思います。
 自分の人生を振り返ると、幸運だったと思います。若い頃の夢で叶わなかったことは自分の能力と努力が足りなかったからで、家が貧乏で勉強したくてもできなかったことも、戦争や災害のために人生計画を狂わされることもありませんでした。高度成長期の中流家庭に育った私は、時代とともに生活が自由で豊かになるのは(多少の波はあっても)当然と思っていました。けれども、そうとも限らないことを痛感させることが続いています。
 自分と家族の生活のために、若者には引き受けにくいリスクがあります。それを若くない人たちが引き受けてもよいでしょう。自分勝手な冒険は社会に迷惑でしょうが、社会のために若者より大胆であることは可能で、そうであってよいと思います。